前橋地方裁判所 昭和56年(ワ)260号 判決 1984年5月07日
原告
中島美樹
ほか四名
被告
斉藤七五三
ほか一名
主文
一 被告斉藤七五三は
(一) 原告中島節子に対し、二、三一二万七、二三六円及び内金二、一九二万七、二三六円に対する昭和五六年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を
(二) 原告中島美樹、同中島秀樹、同中島利恵子及び同中島まり子に対し、各五八〇万三〇五八円及び各内金五五〇万三、〇五八円に対するいずれも昭和五六年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による各金員を
それぞれ支払え。
二 原告らの被告斉藤七五三に対するその余の請求及び被告神保昌幸に対する請求は、これを棄却する。
三 訴訟費用中、原告らと被告斉藤七五三との間に生じた分は同被告の負担とし、原告らと被告神保昌幸との間に生じた分は原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求める裁判
一 原告ら
(一) 被告らは、各自
1 原告中島節子に対し、三、五〇一万九、三〇〇円及び内金三、一六一万九、三〇〇円に対する昭和五六年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を
2 原告中島美樹、同中島秀樹、同中島利恵子及び同中島まり子に対し、各八七五万四、八二五円及び各内金七九〇万四、八二五円に対するいずれも昭和五六年一月一四日から支払ずみまで年五分の割合による金員を
支払え。
(二) 訴訟費用は、被告の負担とする。
との判決及び仮執行の宣言
二 被告ら
(一) 原告らの各請求をいずれも棄却する。
(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。
との判決
第二当事者の主張
一 請求の原因
(一) 本件事故の発生
訴外中島安弘(以下、亡安弘という。)は、昭和五六年一月七日午後二時ころ、自動二輪車(八〇CC)を運転して渋川市坂下町八五二番地県道高崎渋川線上を沼田市方向から高崎市方向に進行中、被告斉藤七五三の運転する普通貨物自動車(群四四ゆ九七九八号)が道路左端に停車して右側ドアを開けたため、このドアに衝突して転倒し、進路前方の対向車線上に投げ出されて、折から対向して進行してきた被告神保昌幸運転の普通貨物自動車(群五五―四〇)に衝突させられ、右各衝撃によつて前額部眉間部打撲挫創、脳挫傷等の傷害を受け、これにより同月一三日死亡するにいたつた。
(二) 被告らの責任
1 被告斉藤においては、停車した後ドアを開けるにあたつては、後方からの進行車両の妨害とならないようその有無、動静等に注意を払うべきであるのにこれを怠つたものである。
したがつて、民法第七〇九条により後記損害を賠償すべき義務がある。
2 被告神保においては、(1)前記運転の車を所有し、自己のための運行の用に供していたものであり、かつ、(2)進路前方の交通状況の注意を怠つたものであるから、自動車損害賠償保険法(以下、自賠法という。)第三条により後記損害を賠償すべき義務がある。
(三) 損害
1 亡安弘の損害
(1) 死亡までの損害(合計 九七万五、六八〇円)
(イ) 治療費 九五万一、二八〇円
(ロ) 看護料 一万九、六〇〇円
(ハ) 諸雑費 三、五〇〇円
(ニ) 文書料 一、三〇〇円
(2) 逸失利益 七、二三二万八、二〇〇円
亡安弘は、生前に尺八用の竹を採取してこれを加工販売する等の営業を行つていたが、その収入は年間少くとも六〇〇万円であつた。そして、死亡時満三九歳の健康な男子であつたから、その後六七歳に達するまでの二八年間は右の収入を得られた筈である。そこで、右期間の逸失利益は、生活費割合を三〇パーセントとみて、年毎のホフマン式計算法によつてこれを算定すると、次のとおりである。
(算式) 6,000,000×0.7×17.221=72,328,200円
2 原告らの相続
(1) 原告中島節子(昭和一五年生。以下、原告節子という。)は亡安弘の妻、同美樹(昭和四二年生)はその長女、同秀樹(昭和四三年生)はその長男、同利恵子(昭和四六年生)はその二女、同まり子はその三女である。
(2) 亡安弘の前記損害につき、いずれもその法定相続分に従つて、原告節子は二分の一である三、六六五万一、九四〇円を、その余の原告らは各八分の一である各九一六万二、九八五円を、それぞれ相続した。
3 原告らの固有損害
(1) 慰藉料 合計一、五〇〇万円
原告らは、亡安弘の事故死により強い精神的苦痛を受けたが、亡安弘が生活の支柱であつたこと及び原告らの年齢等を考慮すると、その慰藉料としては、原告節子につき七〇〇万円、その余の原告らにつき各二〇〇万円が相当である。
(2) 葬儀費 一〇〇万円
原告節子は亡安弘の葬儀費として多額の出捐をなしたが、そのうち一〇〇万円をもつて相当とする。
4 損害に対する填補
(1) 原告節子は自動車損害賠償責任保険から一、〇五三万二、六四〇円及び被告斉藤七五三から二五〇万円の、その余の原告らは右保険から各二六三万三、一六〇円及び同被告から各六二万五、〇〇〇円の、各支払いを受けた。
(2) そこで、原告らの損害は、次のとおりになる。
(イ) 原告節子につき 合計 三、一六一万九、三〇〇円
(ロ) その余の原告らにつき 各合計 七九〇万四、八二五円
5 弁護士費用
原告らは弁護士に本訴を依頼したが、その費用としては、それぞれ次の額をもつて相当とする。
(イ) 原告節子につき 三四〇万円
(ロ) その余の原告らにつき 八五万円
6 結論
被告斉藤に対しては民法七〇九条により、同神保に対しては自賠法三条により、(1)原告節子においては本件事故による損害金合計三、五〇一万九、三〇〇円及びうち弁護士費用を控除した三、一六一万九、三〇〇円に対する亡安弘死亡の日の翌日である昭和五六年一月一四日から支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(2)その余の原告らにおいては右同損害金各八七五万四、八二五円及びうち各弁護士費用を控除した各七九〇万四、八二五円に対する右同様の各遅延損害金を、それぞれ支払うよう求める。
二 請求原因に対する被告らの認否、抗弁
(一) 被告斉藤につき
1 認否
(1) 請求原因(一)の事実につき、原告ら主張の日時ころその主張の場所で、亡安弘運転の自動二輪車と停車中の被告斉藤の車両の右側ドアとが衝突したこと、亡安弘がその主張の日に死亡したことは認めるが、その余は争う。
(2) 同(二)の1の事実は争う。
(3) 同(三)の事実につき
(イ) 同1の事実中、(1)の点は認めるが、(2)の点は争う。
原告ら主張の亡安弘の平均年収は昭和五七年男子労働者学歴計三九歳年収(四三三万六、一〇〇円)より相当高額であるから、右収入を基準として逸失利益を算定するとすれば、ライプニツツ方式によるのが相当である。
また、亡安弘の収入と生活環境を前提とするなら、その生活費割合は四割とみるのが相当である。
(ロ) 同2の事実中、(1)の点は認めるが、(2)の点は争う。
(ハ) 同3の事実は不知
亡安弘の葬儀費は、その六〇万円程度が本件事故と相当性のある損害というべきである。
(ニ) 同4の事実中、(1)の点は認めるが、(2)の点は争う。
(ホ) 同5の事実中、原告らが本訴を弁護士に委任したことは認めるが、その余は争う。
2 反論
(1) 本件事故現場の道路は全幅員約五・四メートル(片側幅員約二・六五メートル)で、被告斉藤車両の駐車した前田板金店前は家が奥に引込んでいるので、その付近の路側帯は約二メートルの幅となつている。同被告は年始挨拶のため右路側帯の内側(家側)に車を入れて駐車したので、後続車両の進行にはなんらの支障もなかつた。
(2) 同被告は、停車後左ウインカーを点灯したまま、降車のため後方を確認したところ、約二〇乃至三〇メートル後方に後続車二台を発見したので、その通過を待つたが、その際、亡安弘運転の二輪車は後方にはいなかつた。
(3) 同被告が右後続車が通過して再度後方確認のため、右側ドアを五センチ乃至一〇センチメートル程度開けた瞬間、亡安弘運転の二輪車が突然右側ドア付近に接触し、亡安弘は半円径を描きながら対向車線上に飛び出し、本件事故となつたものである。
(4) 亡安弘は、同被告運転車両の後方に路側帯をはみ出して駐車している大型車両を避けて道路中央部分を進行したところ、対向車のあることから再度左に寄ろうとして、運転操作を誤り、急角度で同被告運転車両に突込みその荷台右側に、次いで右側ドアに順次接触し、その反動により対向車線上に飛び出たものである。
(5) 以上要するに、同被告においては、下車するにあたり後続車両の有無等に十分注意を払つたものであつて、なんらの過失はなく、本件事故は、亡安弘の運転操作の誤りによる一方的過失により発生したものというべきである。
3 過失相殺の抗弁
仮に、同被告において本件事故の発生につきなんらかの過失があるとしても、亡安弘においては、駐車車両の側方を通過するにあたつては、そのドアの開扉のありうることを考慮して運転すべき注意義務があるのに、これを怠つて、同被告の車両の右側方僅か数十センチメートル程度しか間隔をおかずに走行したことによつて、本件事故が発生したのであるから、亡安弘にも過失があるから、相当程度の過失相殺がなされるべきである。
(二) 被告神保につき
1 認否
(1) 請求原因(一)の事実につき、原告ら主張の日時ころその主張の場所で亡安弘運転の自動二輪車と停車中の被告斉藤の車両の右側ドアとが衝突したこと、亡安弘がその主張の日に死亡したことは認めるが、その余は争う。
(2) 同(二)の2の事実中、同被告がその運転車両の所有者で、運行供用者であることは認めるが、その余は否認する。
(3) 同3の1乃至5の事実は、いずれも不知
2 自賠法三条但書の免責の抗弁
(1) 被告神保は、普通貨物自動車を運転し、高崎市方向から沼田市方向に指定制限速度毎時約三〇キロメートル以下の速度で先行車に約一〇メートル間隔で追従して進行していたところ、原告主張の日時、場所において、突然亡安弘と自動二輪車とが転倒したような状態で反対車線から自己の進路上に飛び出してきたのを発見し、直ちにハンドルを左に切るとともに急制動をかけたところ、ほとんど停車する直前に亡安弘とその自動二輪車が自己運転車両の前部バンパー付近に接触してきたのである。
しかるところ、同被告は進路前方に十分注意を払いながら運転しており、亡安弘とその自動二輪車の異常、危険な状態の発見が遅れたわけではなく、これを発見すると同時に危険回避のため適切な措置を採つたのであるから、本件事故につきなんらの過失もない。
(2) また、事故当時同被告運転車両のハンドル、ブレーキ等になんら機能上の欠陥、障害はなかつた。
(3) したがつて、同被告は自賠法上の責任を負ういわれはない。
三 抗弁に対する認否
被告らの各抗弁事実(二、(一)の3及び(二)の2)は、いずれも争う。
第三証拠関係〔略〕
理由
一 本件事故の発生
原告ら主張の日時ころその主張の場所において亡安弘運転の自動二輪車と停車中の被告斉藤の車両の右側ドアとが衝突したこと及び亡安弘がその主張の日に死亡したことは当事者間に争いがなく、この事実と成立に争いがない甲第一号証、第五号証の二乃至一四及び被告両名の各本人尋問の結果を併せ考えると、
亡安弘は、昭和五六年一月七日午後二時ころ、自動二輪車(八〇CC)を運転して、中央線のひかれた片側有効幅員約二・六五メートルの渋川市坂下町八五二番地先県道高崎渋川線上を沼田市方向から高崎市方向に進行していたこと、しかるところ、折から被告斉藤において普通貨物自動車(群四四ゆ九七九八号)を運転して亡安弘と同方向に進行してきて右同所付近の道路左側の路側帯上に自車を約五〇センチメートル位車道上にはみ出して停車させた後、右側(車道側)ドアを約二六乃至四〇センチメートル開けたため、亡安弘は、その運転する自動二輪車の左側ハンドル部分を右ドアの先端付近に衝突させられて運転の自由を奪われ自動二輪車もろ共進路斜め前方の対向車線上に投げ出され、たまたま対向して進行してきた被告神保運転の普通貨物自動車(群五五―四〇)の前部に衝突させられたこと、そして、亡安弘はこの事故によつて前額部眉間部打撲挫創による脳挫傷の傷害を負い、右事故後直ちに入院治療を受けたが、同月一三日右脳挫傷により死亡するにいたつたこと、が認められる。これを覆えすに足りる証拠はない。
二 被告らの責任の有無
(一) 被告斉藤につき
同被告においては、停車したのち右側ドア(車道側のドア)を開けるにあたつては、進行して来る車両等に衝突させることがないよう安全を確認したうえでこれをなすべき注意義務があるにも拘らず、前掲各証拠によると、これを怠り、停車して右側ドアを開ける前にバツクミラーで右側後方から普通自動車が三台進行して来るのを認め、これらが通過し終つたとき、再度バツクミラーを見たものの、右前部サイドミラー等により安全を十分に確認しなかつたため、さらに右側後方から亡安弘運転の自動二輪車が進行して来るのを見落して右側ドアを開けたために前記事故を惹起せしめたものであることが明らかである。
したがつて、同被告は民法七〇九条により右事故により生じた後記損害を賠償すべき義務を負うべきである。
(二) 被告神保につき(免責の抗弁)
同被告が本件事故当時運転していた前記普通貨物自動車を所有する運行供用者であることは同被告の自認するところであるが、次のとおり、同被告には本件事故についての責任はない。
1 前掲各証拠によると、同被告は、右貨物自動車を運転し、片側有効幅員約二・七メートルの前記県道上を高崎市方向から沼田市方向に、進路前方に対する注意を払いながら、指定制限速度毎時三〇キロメートル以下の速度(この点は前掲甲第五号証の二によつて認められる制動痕、路面の状態と被告神保本人尋問の結果によつて推認できる。)で約一〇メートルの車間距離を保つて先行車に追従進行して本件事故現場に差しかかつたところ、反対側車線の対向車と行き違つて反対車線上の右前方の視野が開けた瞬間、約一二・八メートル右斜め前方から亡安弘が自動二輪車もろとも横転しなが自己の進路上に出てくるのを発見し、危険を感じて直ちにハンドルを左に切るとともに急制動をかけたが間に合わず、約一〇メートル余進行して殆んど停車する寸前に自己運転車両の前部バンパー付近が亡安弘に衝突したことが認められ、これを覆すにたりる証拠はない。
右認定事実によると、被告神保は前方注視義務を尽しており、速度違反はなく、かつ、危険発生を認識して採つた措置にも誤りはなかつたことが明らかであるから、同被告運転車両と亡安弘との衝突は、同被告にとつては避けることができなかつた事故であつて、これにつきなんらの過失も存しないものといわなければならない。
2 前掲甲第五号証の一によると、被告神保運転の車両のハンドル、ブレーキの機能につきなんらの欠陥、障害のなかつたことが肯認できる。
3 してみると、被告神保の免責の抗弁は理由があり、同被告においては、原告らに対し自賠法三条による責を負うべきいわれはないことになる。
4 なお、前記認定のとおり、亡安弘は前額部眉間部打撲挫創による脳挫傷によつて死亡したものであるが、本件全証拠によつても、右傷害が被告神保運転の車両との衝突によつて生じたものとは認められないのである。
5 したがつて、原告らの同被告に対する請求はその余の点を判断するまでもなく失当である。
三 亡安弘の過失につき(被告斉藤の過失相殺の抗弁)
前記認定のとおり、亡安弘は進路前方の道路左端に停車中の被告斉藤運転車両の右側方を通過しようとして本件事故に遭遇したものである。
しかるところ、右のように停車中の車両の側方を通過するにあたつては、車両の運転者らにおいて不注意に車道側のドアを開けて進路を妨害する虞れがあるから、右車両の動静に注意を払い、同車両内に運転者がいるか否か等その動静如何によつては、警音器を鳴らしてその注意を喚起するとか、その後方で徐行若しくは一時停止して安全を確認したうえで通過し、又は、同車と安全な間隔を保つて通過するなどの注意を尽すべきである。
しかるに、前掲甲第五号証の二、四、五、一一乃至一四及び被告斉藤本人尋問の結果を考え併せると、亡安弘においては、同被告運転車両に注意を払つていたならば、同車両の運転席に同被告がいることが確認できた筈であるし、また、進路車道の幅員上反対車線に出ることなく同車両と安全な間隔を保つてその右側方を通過することができたにも拘らず、前記のごとき措置をなんら講ずることなく、漫然と同車両の右側面に近接して通過しようとしたために、本件事故を惹起するにいたつたことが認められる(右認定を妨げるべき証拠はない。)から、亡安弘においても本件事故につき過失があるものといわざるを得ないところである。
四 損害について(原告らと被告斉藤との関係において)
(一) 亡安弘の損害
1 亡安弘は死亡までの治療費等として合計九七万五、六八〇円の損害(請求原因(三)、1の(1)の事実)を受けたことは原告らと被告斉藤との間において争いがない。
2 逸失利益(請求原因(三)、1の(2))
成立に争いがない甲第二号証、同第一五号証の五、原告中島節子本人尋問の結果によつて成立の認められる甲第三、第四各号証及び同本人尋問の結果によると、亡安弘は、昭和一七年一月七日出生の健康な男子であり、生前に尺八用の竹の販売及び尺八の製造販売を営んでいたが、昭和五四年度における年間所得金額は五七〇万円で、昭和五五年度のそれは六〇〇万円であつたことが認められる。
したがつて、右両年度の所得金額の平均値である年額五八五万円を基準とし、その生活費割合を三五パーセントとみて、年毎のホフマン式計算法によつて可働可能年数二八年間の逸失利益を算定すると、六、五四八万二、八五二円(円未満切捨)となる。
(算式)5,850,000×0.65×17.221=65,482,852
3 合計 六、六四五万八、五三二円
(二) 原告らの相続取得と固有損害
1 原告らと亡安弘との身分関係(請求原因(三)、2の(1)の事実)は原告らと被告斉藤との間において争いがない。
したがつて、亡安弘の前記損害合計六、六四五万八、五三二円につき、いずれも法定相続分に応じて、原告中島節子はその二分の一である三、三二二万九、二六六円を、その余の原告らは各八分の一である各八三〇万七、三一六円(円未満切捨て)を、相続したこととなる。
2 原告らの固有損害
(1) 慰藉料
亡安弘が原告ら一家の支柱であつたこと、原告らの年齢、家庭状況その他本件口頭弁論に顕われた諸般の事情(ただし、後記過失割合の点は除く。)を総合勘案すると、妻である原告中島節子につき七〇〇万円、子である原告らにつき各二〇〇万円をもつて相当と認める。
(2) 葬儀費用
原告中島節子本人尋問の結果によると、同原告は葬式費用、仏壇購入費等として少くとも一四〇万円を出捐していることが認められるところ、亡安弘の職業、収入その他諸般の事情を考慮し、本件事故と相当因果関係のある葬儀費用としては、九〇万円をもつて相当と認める。
3 相続取得と固有損害の合計
(1) 原告中島節子につき 四、一一二万九、二六六円
(2) その余の原告らにつき 各一、〇三〇万七、三一六円
五 過失相殺
亡安弘においても、本件事故の発生につき前記認定(三)の過失が存するから、同人及び被告斉藤の各過失の内容、程度等を比較考量すれば、前記各損害額からいずれも一五パーセントの額を控除するのが妥当である。
そこで、原告中島節子の取得した賠償債権額は三、四九五万九、八七六円(円未満切捨て)、その余の原告らのそれは各八七六万一、二一八円(円未満切捨て)となる。
六 損害の填補
請求原因(三)、4の(1)の事実は原告らと被告斉藤との間に争いがないから、原告中島節子については、前記債権額三、四九五万九、八七六円から填補分合計一、三〇三万二、六四〇円を控除した二、一九二万七、二三六円を、その余の原告らについては、前記各債権額八七六万一、二一八円から各填補分合計各三二五万八、一六〇円を控除した各五五〇万三、〇五八円をそれぞれ被告斉藤に請求し得ることになる。
七 弁護士費用
本件事案の内容、審理経過、認容額その他諸般の事情を斟酌すると、本件事故による損害賠償として請求し得る弁護士費用の額は、原告中島節子においては一二〇万円、その余の原告らにおいては各三〇万円とみるのが相当である。
八 結論
以上の次第で、(一)原告らの被告神保に対する各請求はいずれも失当としてこれを棄却すべきであるが、(二)被告斉藤は、自賠法三条に基づき、(1)原告中島節子に対し、二、三一二万七、二三六円及びうち弁護士費用を控除した二、一九二万七、二三六円に対する亡安弘死亡の日の翌日である昭和五六年一月一四日からその支払ずみまで民法所定年五分の割合による遅延損害金を、(2)その余の原告らに対し、各五八〇万三、〇五八円及びうち各弁護士費用を控除した五五〇万三、〇五八円に対する右同様の各遅延損害金を支払うべき義務があるから、原告らの同被告に対する各請求は、右の限度においては正当としてこれを認容し、その余は失当として棄却すべきである。
よつて、訴訟費用については、民事訴訟法第八九条、第九二条、第九三条により、原告らと被告神保との間に生じた分は原告らの負担とし、原告らと被告斉藤との間に生じた分は同被告の負担とすることとし、仮執行の宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 山之内一夫)